1918-01-01から1年間の記事一覧

ko o tsurete (1)

『子をつれて』 葛西善蔵 一 掃除をしたり、お菜(さい)を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を済まさせ、彼はようやく西日の引いた縁側近くへお膳を据えて、淋しい気持で晩酌の盃を嘗(な)めていた。すると御免とも云わずに表の格子戸をそうっと…

ko o tsurete (2)

二 ………… 眼を醒まして見ると、彼は昨夜のまゝのお膳の前に、肌襦袢一枚で肱枕して寝ていたのであった。身体中そちこち蚊に喰われている。膳の上にも盃の中にも蚊が落ちている。嘔吐を催させるような酒の臭い――彼はまだ酔の残っているふら/\した身体を起し…

ko o tsurete (3)

三 その翌日の午後、彼は思案に余って、横井を署へ訪ねて行った。明け放した受附の室とは別室になった奥から、横井は大きな体躯(からだ)をのそり/\運んで来て「やあ君か、まああがれ」斯う云って、彼を二階の広い風通しの好い室へ案内した。広間の周囲に…