桃
ひる。
ただあつい。
あつさはいつも無目的。
めまい、貧血、発汗。ただそれだけの、
装置のような、わたくし。
生理反応のスピードが、感覚を追い抜き、
消し去る。
日中の記憶がおぼつかない。
夜、帰宅。
嫁と氷のような会話。ふたことみこと。
ことばは、発せられ、振動させるそばから空気を氷らせ、
そして、氷ったことばは、床に落ちた。
その、落ちて壊れる、
音のような、
落下する、空気摩擦のような、
会話のねいろ。
まるで、
気化熱のような、
会話のよいん。
真夜中に、
桃を食べるかと聞かれ、
食べると答え、
感情を押し殺し、
息を殺し、
おたがい
闇を見つめるような眼差しで、
桃を食べる。
そんな、凍てついた、
夫婦の会話。
床でこなごなの
ことばの残骸と、
馥郁たる桃のかおりの現実感。
舌の上にあふれる
甘い肉汁だけに温度が宿る。
一日の終わりの、
そんな風景。
(画像はイヤダさんのアレより)