あなたとわたしのじょうげどう




 あついいちにち。
 ひかり、にえたぎり、蒸発し、跡形もなく消え去るいちにち。

 ビルも、アスファルトも、給水タンクも、川も、鉄橋も、
 路にうちすてられた自転車も、田んぼからの風景も、田んぼも
 わたくしの仕事も、わたくしも、あついあついということばも。
 ひかり、にえたぎり、蒸発し、跡形もなく消え去るいちにち。

 みんな、青黒い成層圏のほうへ、吸い込まれていってしまった。
 空の高いところには、濃密な闇があって
 日中、ことごとく吸い上げられた世界が、連続して営まれているのだった。
 気がつくと、わたくしはそこで、まよなかの日記を書いていた。


 吸い上げられた世界は、
 今度はゆっくりと、下降しはじめる。
 わたくしも、また、日記を書き、下降するまよなかをすごしている。
 二箱目のたばこも、百円ライターも、冷めたインスタントコーヒーも。
 眠るナツオさんも、ナツコさんも。ザードの追悼ベストアルバムのTVCMも。
 24時間TVの自社CMも、まよなかのスポーツニュース番組も。
 夏休みうんぬんという、わたくしのぼんやりした考え事も。
 この3カ月間急に老け込んだ登坂アナに関するうわさも、
 勝gramを観に来てくれたナイスなそこの貴方も。
 みな平等の速度をたもちながら、
 赤道付近では秒速数百メートルともいわれる、地球の自転にぶん回されながら
 ひかる地上に向かって、ゆっくりとおりてゆく。
 成層圏の青い闇から、見下ろす地上はこぶし大くらいに見える。



 あと、数時間のち。
 世界と、わたくしと、わたくしの日記が、
 地上に着地する頃には、
 ひかり、にえたぎり、蒸発し、跡形もなく消え去るいちにちが
 またはじまる。
 





↓暑苦しい写真