見物席のこと




 また下町のほうに行きたくなって、
 チャリで出かける。
 花火なんちゃらのため、おびただしい人出、交通規制。
  
 hスmd、閑散とした昼下がり。
 ちかごろ頻繁に訪れているが、地理がまだいまひとつ。
 いきたい場所、出たい通りを思うも、うまくたどり着けなかったり。
 この街の地図は、ほかとちょっと違う。
 3ズゲン的な空間ニンスキに頼るより、
 においや、大気中の独特のエーテルが訪問者をみちびく。
(また、においが我々の3ズゲン的な空間ニンスキを歪めているともいえる)
 我々が、"中枢"と呼ぶ場所が、急に目の前に現れる。
 大きなカゴ、トタンのつづれ織り、薬品タンク。
 しろい石ころだらけの、敷地のなかほど。
 路地にしみ出した、えたいの知れない痕跡。
 
 工場の谷間のような、黒いほそい路地。
 エーテルが集中的にみなぎる。
 通り過ぎると、うつろな表情で何かを見つめる黒人が、
 工場の奥のうかがい知れない漆黒の続きのように、座っていた。
 
 麩菓子スミダ大花火大会を撮影しようと思いたつも、
 そこから花火が見えるか見当もつかないので、河を渡ってもどってくる。
 よめの親戚の家に立ち寄る。近所で花火を見物。
 しきものをしき、腰を下ろすと、左手には産業会館。
 そこが充実した見物席であることを、
 すぐに納得する。2秒くらいで。