こわいろのオンナ


(オスト デカイ)

 夕方。
 出かけるとあっさりと昨日の雪が跡形もなかった。きれいなもんだ。
 中古品を見て肉を食って御苑わきを流して99に寄って帰宅。
 あっさりとしている。

 歯っかけガールが、白いシャツを着てレジにいた。
 「ありがとうございましたー」「ありがとうございましたーまたごりようくださいませー」
 「だめだなぁやっぱりうまく言えないなー」
 などと、横のレジのバイト男子と小声でなにやら話していて。店内を巡回しながらしばらく聞き耳を立てていると、
 どうも「ありがとうございましたーまたごりようくださいませー」がうまく言えない、的な話をしているのだった。
 とても舌ったらずなのだ。
 アリガトウゴザイマシターマタゴリヨウクダサイマセーアリガトウゴザイマシターマタゴリヨウクダサイマセー、と、
 あのコはレジの中で小さく何回も練習していたので、
 手にとった商品をレジに持って行こうとしたワタスは、噴き出しそうになり
 レジ前で方向をかえて、おかしくも甘く切ない、ないまぜのなんだかよく分らない気分を落ち着かせるため
 もう一度、店内を一周してから、レジに向かった。
 まいど、なにか胸をくすぐられるような気分にさせるゼ。
 
 ここ2,3日、女性のコトを考える。おそらくイヤdさん影響かと思われる。
 だいぶ前から気付いていたことだけれど、どうもワタスは変わった声色に弱いらしい。
 イヤdさんがアレしていたハリ●ンボンのアレも、ワタスがひっかかっているのは声かと思われる。
 あの、くぐもった、もそもそした発音は、TVタレントであるという基準から考えると、だいぶ異質な感じがする。

 前の職場には、航空雑誌志望で入社してきたtさんがいた。彼女もハスキー系の独特な声色をしていて、趣味はプラモ作り、しかも「旅客機専門」だそうで、かなりワタスは痺れた記憶がある。彼女と話したり一緒に仕事をするのはとても楽しかった。だけどtさんは2,3年で退社し、北海道の方の航空会社に転職していってしまった。あとになって、退社の原因にいろいろ同僚からのイジメ的なアレがあったと聞いて、ずいぶん複雑な気分にさせられた。
(そういえば、嫁の勤め先には、重機マニアの女性社員がいるそうで、マニアックな女性というのも、いるところにはいるんだな、と思ったりした。)

 ●によんオルタナフロアのあのコはどうしているだろうか。
 あのコも独特の雰囲気と、独特の声をしている。
 何年か前、アンディ・ジョルビーノだったか、そんな感じのNDWを試聴させてもらいながら
 レジごしにかわした、ひとときの会話。
「うふふ。なんだか、おもしろいおんがくですねえ・・・」
「そうですねえ。かわってますよねえ・・・」
「うふふ。かわってますねえ・・・」
 などと、独特の声色であのコは言って、笑っていたっけなあ。

 ワタスは日頃から、家で独りで聴く音楽が一番だと思っているけれど、
 (また、そういう雰囲気の音楽にしか、あんまり興味がないのだけれど)
 あのコとぽつぽつとした会話を交わしながら、耳を傾けたアンディ・ジョルビーノ。
 なんだかあれは、格別だったなぁ。などと、
 思い出したりしている。